ワインの風味(香りと味)その2
ワインの風味(香りと味わい)には流行がある。
最近流行の薄旨ブルゴーニュもそのひとつ。
アンリ・ジャイエ(故人)というブルゴーニュワインの造り手が存在した。
彼の80年代以降のワイン造りには一貫した造り方が見られる。
「ミルランダージュ」(一般的には未熟成果実の収穫を指す)といわれる状態でブドウを収穫をすることにより、三大要素(糖・酸・タンニン)のバランス中、過剰な糖と果皮の色素の増加と一方で酸の減少を避け、比較的酸の含有割合の多い果汁を得ることが出来る。
この果汁から(恣意的な高温及び過度の低温発酵を施さず)造られるワインの色調は若いうちから(当然紫の色調はみうけられるものの)比較的淡い。
ここで若いVOSNE-ROMANEEを例えると。
香りは決して高くは香らない。またアメリカンダークチェリーやダージリンティーのような強いものではない。
むしろ佐藤錦のような柔らかく清楚な香り。それが若さゆえの微かな樽の香りに加え、熟成を経なければ生まれない筈の薔薇「カトリーヌドヌーヴ」(桃色の薔薇)の香りに伴われて液面から静に立ち上る。
味わいは若いくせに果汁の凝縮感とは程遠い。ただ印象的な旨味と緊張感を持ったしなやかな酸が、ほつれかけてしまいそうなタンニンとせめぎあう。そして、思いかけぬ圧倒的な量のミネラル(カルシュウムとシリカ)を口蓋と味蕾に残して行く。
風味(香りと味わい)の余韻はその長さを測ることすら忘れさせる。
フィネス(洗練された高貴なバランス)とはこのようなワインにこそ相応しい言葉かもしれない。 店主 那須